「ん…はぁ…」

部屋の中に漂う吐息。

身体のすべてに愛しい人が付けた赤い跡。

彼を愛しているという証とも言える印。

その愛しい手で触れられ、体の深から熱を持つ。

時折、その口から名を呼ぶ。

「黄瀬…」

と。

その度に心と体は躍り、快感に震える。

次第にその愛しい人の手が彼の全てを包み込むと、黄瀬の口から艶のある声が漏れる。

「かさ…松…センパイ…」

黄瀬は目じりに涙をため、もう限界だと愛しい人の名を紡ぐ。

笠松もそんな黄瀬の姿だけで自身の体全て、熱を帯びていた。

「黄瀬」

笠松は静かに黄瀬の名を呼ぶと二人は幸せの絶頂を迎えた。





「うわっ!」

ガバッと勢いよく布団から起き上がる。

黄色い髪の毛のキセキの世代の一人黄瀬涼太だ。

「…夢…」

目が覚めて、黄瀬は溜息をこぼした。

確かに夢の通り、黄瀬とバスケ部のキャプテン笠松とは恋人同士である。

人目を忍んで、キスや体を重ねることはしょっちゅうある。

しかし、そんな夢を見て夢精してしまうとは、黄瀬涼太一生の不覚でもある。

「センパイ」

静かに笠松の名前を呼んで見る。

夢にしては生々しく、体も熱を帯びている気がする。

今までそこに笠松がいたような錯覚さえも感じながら、黄瀬は布団から出る。

時計に目をやると午前10時だった。

今日は部活も学校も休みだ。

最初は笠松とデートの約束をしようとしたが、

笠松が用事があるというので完全に一人取り残されていた。

そんなことを思い出すと夢のことも納得する。

着替えようとしたとき、部屋のドアがノックとともに開いた。

「黄瀬、入るぜ」

そこには笠松が立っていた。

「へ、笠松センパイ?」

夢の続きなのか、それともまだ夢を見ているのか、黄瀬は一瞬、頭が混乱した。

笠松は部屋のドアを静かに閉める。

「用事が早く終ったからな、顔を見に来た」

どうやら、笠松が来たと同時に黄瀬の母が出かけてしまったらしい。

「センパイ…嬉しいっスよ」

黄瀬は笑顔を浮かべ、そう答えた。

しかし、黄瀬の体は夢のせいで熱を帯びたままで、夢精をしたとはいえ、

そこは健全な男子なわけで、思いっきり体が反応してしまった。

「…お前…」

笠松の視線が痛い。

「あ、えっと…これは…」

言い訳が見苦しい。

「黄瀬」

笠松は黄瀬を引き寄せると優しく唇を重ねる。

離したあと、再び重ねる。今度は少し激しく重ねる。

互いの舌を絡ませ、口内に割って入る。

笠松は黄瀬をベッドに押し倒し、唇、首筋と唇を落としていく。

「…センパイ…じらさないで…」

目じりに涙を溜めながら、黄瀬は言った。

「…わかった…」

笠松は準備のできている黄瀬の中に自らの分身をうずめた。

「…センパイ…好き…」

「黄瀬…俺も好きだぜ」

二人は唇を重ねながら、夢と同じように同時に欲望を解き放った。





「うわっ」

あまりのリアルな夢に黄瀬は目を覚ました。

思わず布団から起き上がった。

「夢の夢?」

もう全てが現実的でどこから夢なのか、今も夢なのか分からなくなってきた。

しかし、隣には愛しい人と寝ている。

「センパイ…?」

声を掛けてみるが、寝ているのかおきない。

暗い部屋を見渡すと、黄瀬の部屋のようだが、今は何時なのかも分からない。

微かにカーテンから光が差し込んでいる。

その漏れ出す光で時計を確認する。

「え、10時?」

夢の中も10時だった。

これも夢なのか。

「センパイ」

もう一度呼んで見るが、返事はない。

ふと、自分の体に視線を落とす。

笠松が付けた赤い跡。

彼からの愛されているという証。

ずっと、愛されたいと願う反面、愛していきたいと思う。

「…センパイ…」

これが夢でも現実でもいい。

しばらくは、この夢だか現実だかわからない中で彼に愛されたい。

体に刻まれた証がある限り…。


『笠松センパイ、今度は涼太って呼んでくださいっスね』

黄瀬はそう願いつつ、愛しい人の唇に自分のそれと重ねた。




終わり